1
イルカ。
私にとっては、楽園の象徴だ。
イルカが楽しそうに泳ぐ海に囲まれた南のリゾート。
そんな場所で人生の半分を過ごす。
せせこましい日本で、ある程度の年齢まで働くのは仕方ないだろう。
しかし、納得いくまで働いたのち、南の島でその後の人生を送る権利はあっていいはずだ。
わずらわしい人間関係から解放され、話し相手はイルカと青い海。
夜は星空の劇場が私を待っている。
2
私はずっと、そんな夢とも妄想ともつかぬことを考え続けてきた。
しかし、強く願っていると、夢は叶うものだ。
3年前から私はイルカとともに南の島で自由気ままな暮らしを送ってきた。
好きな時間に起きて、一日中海を眺め、時には透きとおる海で泳ぎ、イルカたちとたわむれる。
誰に文句を言われることもなく、時間に縛られることもない。
まさしく、理想の生活だ。
3
しかし、もうたくさんだ。
海外出張の途中、私の乗った旅客機は太平洋上で何らかのトラブルに見舞われ、海上に墜落した。
気がつくと、私はこの無人島に流れ着いていた。
何か月かかけて島全体を散策したが、人間の気配は無かった。
島に人影は無かったが、島を取りまく海には常にたくさんのイルカが泳いでいた。
私は笑った。
まさしく私が長年思い描いていたリゾートではないか。
私の願いは、叶ったのだ。
だが、現実は厳しかった。
とにかく、寂しいのだ。
言っておくが、私は寂しがり屋ではないし、孤独をこよなく愛する人間だ。
しかし、イルカではなく、人間と話をしたい。
口うるさい上司でも構わない。
言葉を交わしたい、言葉で会話したい。
こんなに言葉というものは人間に必要なものだったのか。
今更ながら、私は思い知らされた。
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