希望を生むタマゴ

タマゴから虹

前、近所で骨董品 屋を営む顔見知りの爺さんから、タマゴをもらった。
なぜタマゴが骨董品屋にあるのかって?

このタマゴは、割ると希望が生まれるタマゴだそうで、爺さんがチベットへ旅行へ行ったときに現地で購入したものだそうだ。
「俺はもう夢や希望は卒業したから、お前にくれてやる」と言って、僕にくれたのだ。
下町の小さな印刷工場に勤める33才のさえない男を哀れに思ったのだろう。

僕は話のタネに取りあえず有り難く頂くことにした。
タマゴは4個あって、大きさはニワトリの卵よりひと回りほど大きい。
もらって部屋の戸棚にしまったが、僕はタマゴの事を忘れてしまっていた。


る日、いつものよ うに狭いアパートに彼女が遊びに来ていた。
お手製のチャーハンを食べ終えて、ちょっと時間を持て余していた時に、希望を生むタマゴのことを思い出した。

彼女に話すと、どうしても割ってみたいと言い出した。
そのタマゴを久しぶりに戸棚から出してみた。

別に色も形も持った感触も、何も変わっていなかった。
彼女が見つめる中、4個のうちの1個のタマゴを割った。

ると、中からフワッと小さな虹が出てきた。
まるで生まれたての虹といった感じで、彼女はその美しさに感激していた。

しかし、その時には別に何事も起らなかった。
僕も彼女も心に希望を持てたということもなかった。

もしかして、気分が盛り上がって結婚の約束でもすることになるのかと思ったが、そんなこともなかった。
なにも起らなかったので、タマゴは1個しか割らなかった。


化は、3日後に起 こった。
彼女にフラれたのだ。

彼女とは社内恋愛だったが、出入りの製本会社の営業マンと恋に落ちたのだそうだ。
そんな急なことって・・・。
間違いなく「希望を生むタマゴ」の影響だ。

しかも、希望を奪ってどうする。

せっかく出来た彼女を失ってしまい、僕は落ち込んだ。
失って初めて本当の大切さが分かるということを実感した。

失意の中、希望を生むタマゴの事を考えた。
もしかして、1個しか割らなかったのがいけなかったのかも知れない。

もう1個割れば、状況はまた変わるんじゃないか。
僕は、おそるおそる2個目のタマゴを割ってみた。

1個目とまったく同じようにきれいなミニ虹が出た。
相変わらず、心境に変化はない。


して、また3日後 に変化が起こった。
会社をクビになったのだ。

フラれた彼女の彼氏(例の製本会社の営業野郎)に見事にハメられたのだ。
相手の印刷枚数の発注ミスをすべて僕の責任にされたのだ。

優しかった印刷会社の社長も、「おまえを許せる損失額ではない」と言った。

もう開いた口がふさがらなかった。
骨董屋の爺さん、「希望を奪い取るタマゴ」と間違ったんじゃないか。

いま思うと、あんなにアットホームで良い人たちの中で仕事が出来たことが、奇跡のように思えた。


にきた僕は、骨董 品屋へ行き、爺さんを問い詰めた。
すると爺さんは、自信ありげにこう言った。

「文句はタマゴを全部割ってから言うんだな」

家へ帰って、3個目のタマゴを割ってみた。
 

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